株式会社AMIの松山です。この度は私のコラム記事を訪問していただき誠にありがとうございます。
近年、歯科医院のマネジメントにおいて「人」の問題に悩む院長先生が増えています。特に30歳以下のスタッフ、いわゆる「令和人材」に対しては、従来のやり方が通用しないと感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、令和世代のスタッフの特徴を踏まえながら、歯科医院における効果的なマネジメントの基礎知識を4つの視点から解説します。
目次
第1章:なぜ今、スタッフマネジメントが重要なのか?
歯科医院において、スタッフマネジメントは「経営の根幹」と言っても過言ではありません。患者が医院に足を運び、診療を受け、再来院するという一連の流れの中で、スタッフはすべての接点に関与しています。ここでは、マネジメントが重要な理由を3つの観点から掘り下げていきます。
1. 経営の安定性に直結する
多くの歯科医院では、診療の質を保ちつつ、生産性を上げることが経営課題となります。その実現に不可欠なのが「チームとしての機能性」です。どれだけ優れた院長がいても、スタッフが育たなければ診療の流れは滞り、予約枠は埋まらず、収益は上がりません。
スタッフが業務を理解し、自律的に動ける状態を作ることが、日々の診療効率に直結します。受付がスムーズに対応し、アシスタントが先回りして動き、衛生士がリコール率を高める。これらはすべて、日々のマネジメントの積み重ねによって実現されるものです。
特に近年は、保険点数の抑制や人件費の高騰もあり、「限られたリソースで最大限のパフォーマンスを出す」マネジメント力が求められています。
2. 患者満足度を左右するカギになる
技術力だけで患者が医院を選ぶ時代は終わりました。来院時の受付対応、診療中の声かけ、アシスタントの気配り、治療後のフォローアップまで、患者の印象を左右する要素の多くは「スタッフの接遇力」によって決まります。
どんなに丁寧に治療をしても、「受付の人が無愛想だった」「助手さんの態度が冷たかった」といった印象が残れば、次回来院は期待できません。
逆に、スタッフが一人ひとりの患者に対して温かく対応し、信頼関係を築けていれば、「あの医院にまた行こう」と思ってもらえます。
つまり、患者満足度=スタッフ力であり、スタッフ力=マネジメント力なのです。
3. 離職やトラブルのリスクを下げる
多くの医院が抱える悩みの一つが「スタッフの離職」です。特に新卒や若手スタッフの定着率が低い、スタッフ同士の人間関係が悪化する、といった問題はどの医院でも少なからず見られます。
こうした問題の根本には、「日頃のマネジメント不足」があります。スタッフの不安や不満に気づかず、相談の場を設けないまま放置してしまうと、ある日突然「辞めたいです」と切り出されるケースも珍しくありません。
マネジメントとは、「問題が起きたときに動くこと」ではなく、「問題が起きないように日々関わること」。
日々の声かけや評価の仕組み、働きやすさへの配慮があることで、スタッフは安心して働き続けることができます。
このように、スタッフマネジメントは医院の「経営・サービス・人材定着」のすべてに関係する、極めて重要な経営活動です。
第2章:令和人材の特徴を知る
令和時代に入って以降、歯科医院でも20代の新卒・若手スタッフの採用が増えつつあります。
しかし、多くの院長やマネージャーからは「何を考えているのかわからない」「指示しても動いてくれない」といった戸惑いの声が聞かれます。
こうした悩みの背景には、時代背景の違いによる“価値観ギャップ”があります。
令和人材を適切にマネジメントするためには、彼らの特徴を理解し、それに合わせた関わり方を取り入れることが不可欠です。
1. 指示より「意味」を求める
令和世代は「なぜそれをするのか」という“意味”を重視します。ただ「やって」と言われるだけでは納得せず、自分の行動がどう医院に貢献しているか、どんな意義があるのかを知りたがる傾向があります。
たとえば、「使用済みトレーをすぐに片付けて」と伝えるだけでなく、「その場で片付けると次の患者さんをスムーズに案内できて、待ち時間が減らせるんだよ」と背景を伝えると、自ら動きやすくなります。
2. 結果より「プロセスの納得感」
従来のように「結果が出ていればいい」ではモチベーションが続きません。令和人材は、その結果に至るまでのプロセスや環境にも敏感で、「自分の意見が反映されているか」「フェアに扱われているか」といった“納得感”を大切にします。
たとえばスタッフルームの掃除当番なども、「順番を決めたから」ではなく、「こうした役割分担があることで職場環境が整って働きやすくなるよね」と共有することで、協力意識が高まります。
3. 「正解が一つではない」教育環境で育った
令和世代は、小学校から「多様性」や「自分の意見を持つこと」を大切にされて育っています。そのため、「こうしなさい」という一方的な指導より、「どう思う?」「この場合どうする?」と問いかけられることで、自分の考えを言語化することに慣れています。
院内でも、「このやり方が正しいから」と押し付けるのではなく、「こういうやり方もあるけど、自分だったらどう工夫する?」といった投げかけを意識しましょう。これは成長意欲を引き出すコーチングマネジメントにも通じます。
4. こまめなフィードバックを求める
令和人材は、上司や先輩からの反応に非常に敏感です。何も言われなければ「評価されていない」と感じ、モチベーションが低下します。
一方で、小さなことでも「ありがとう」「よかったよ」と声をかけると、大きなやる気につながります。
例えば、受付で患者さんに笑顔で対応していた場面を見たら、「今の対応、とても感じがよかったよ」とその場で伝えるだけでも、承認欲求が満たされ、日々の働きに前向きになります。
5. 安定志向だが自己成長にも関心がある
意外に思われるかもしれませんが、令和世代は「出世」や「昇格」にはあまり興味を示さない一方で、「自分の成長」や「役に立っている実感」には強い関心を持っています。
そのため、目標設定や業務の中に“成長の機会”を組み込むと、高いモチベーションを保ちやすくなります。
例えば、「3ヶ月後に新患対応の説明を一人で担当できるようになろう」といった小さな目標設定が効果的です。
このように、令和人材は「仕事に対してドライ」「指示に従わない」のではなく、価値観や育った環境が従来と異なるだけです。
その違いを理解し、寄り添ったマネジメントを実践することが、スタッフの活躍と定着につながります。
第3章:ティーチングとコーチングの違いと活用方法
スタッフ教育において、従来は「ティーチング=教えること」が主流でした。
しかし、令和人材をはじめとする若手スタッフの成長を支援するには、「教える」よりも「気づかせる」コーチング型の関わり方が有効です。
ここでは、ティーチングとコーチングの違いを整理し、歯科医院における実践的な取り入れ方を解説します。
ティーチングとは何か?
ティーチングとは、知識や技術、マニュアルを指導者側から一方的に伝える教育手法です。
新人スタッフへの業務フローや器具の扱い方など、基本的なルールを教える場面では非常に効果的です。
例えば、「この器具はこの順番で洗浄・滅菌する」「レセプト入力はこの画面から操作する」といった、明確な“正解”がある場面ではティーチングが有効です。
しかし、応用的な対応力や自律的な行動を育てるには限界があります。特に、納得感や内発的な動機づけを重視する令和人材には、一方的な指導は「押し付け」と受け取られるリスクもあります。
コーチングとは何か?
一方、コーチングは問いかけや対話を通して、相手の中にある考えや気づきを引き出すアプローチです。
答えを与えるのではなく、考えるきっかけを与えることで、自主性や思考力を育てます。
たとえば、診療中に患者さんへの声かけを忘れていたスタッフに対して、「さっきの場面、患者さんはどんな表情していた?」「自分だったらどう感じるかな?」と問いかけることで、自分自身で改善点に気づくよう促すのがコーチングです。
このように、スタッフの内側にある思考を引き出すことで、自分で考え、行動を選択する力が育ちます。
歯科医院での活用例
【1】新人教育ではティーチング+コーチングの併用を
たとえば、新人に対しては最初は「流れを覚えること」が必要なのでティーチングが中心になります。しかし、慣れてきた段階では「自分だったらどう対応するか」「患者さんが安心するには何ができるか」など、コーチング的な問いかけに切り替えていきます。
このステップ移行がスムーズであるほど、スタッフの成長スピードも早まります。
【2】1on1面談や月次フィードバックでコーチングを活用
「最近どんなことにやりがいを感じた?」「今後どんなことに挑戦してみたい?」といった質問を通じて、本人の内発的な意欲を引き出します。
さらに、「今やっている業務の中で、もっと良くするにはどんな工夫ができる?」など、具体的な改善提案を促すことで、自律的な行動にもつながります。
成長意欲を引き出す「関わり方」がカギ
ティーチングは「知識を与える教育」、コーチングは「自ら考えさせる支援」です。
令和人材のマネジメントでは、どちらか一方ではなく、タイミングや相手の成長段階に応じて使い分けることが重要です。
最も大切なのは、「あなたを信じている」「あなたならできる」と伝える姿勢です。
自分を尊重してくれる上司の言葉には、スタッフも素直に耳を傾け、前向きに成長しようとします。
第4章:日常業務に取り入れるマネジメント術
マネジメントは、特別な時間や制度の導入だけで成り立つものではありません。
実際には、スタッフと日々交わす会話、声かけ、ちょっとした気配りの積み重ねこそが、医院の雰囲気やチームワークに大きな影響を与えます。
この章では、令和人材にも効果的なマネジメントの具体的な取り組みを「日常業務の中で自然に実践できる工夫」としてご紹介します。
1. 1on1ミーティングの導入
定期的に一対一で話す時間を設けることで、スタッフの本音を引き出し、信頼関係を築くことができます。
月1回、15分〜20分程度でも十分です。雑談の延長のような雰囲気で、「最近どう?」「困っていることない?」など、テーマを決めすぎずに話すのがポイントです。
【実践例】
「最近、受付での患者対応が落ち着いてきたね。自分でも変化を感じる部分はある?」
→ 自信や達成感を言語化してもらうことで、自己効力感が高まりやすくなります。
2. 小さな「ありがとう」を見逃さない
令和世代は、他者からの承認に敏感であり、ポジティブなフィードバックがモチベーションに直結します。
特別な成果に対する評価だけでなく、日常の些細な貢献にも「ありがとう」「助かったよ」と言葉にして伝えることが重要です。
【ポイント】
- 言葉は“その場”で“具体的に”伝える
- 「今日の説明、わかりやすくてよかったよ」と内容に触れることで納得感UP
3. 業務の「背景」や「意味」を共有する
指示やルールだけを伝えるのではなく、「なぜそれをするのか」をあわせて説明することで、スタッフの納得度と意欲が高まります。
【例】
「電話対応は3コール以内で取ってね」→「3コール以上待たされると、不安になって電話を切ってしまう患者さんもいるから」
このように背景を共有することで、自ら考えて行動するスタッフが育ちます。
4. スモールゴールで成長を実感させる
令和人材は「少しずつ成長している」という実感を大切にします。
最初から大きな目標を掲げるよりも、「1週間で○○ができるようになる」「今月中に△△を任せられるようになる」といった小さなゴールを設定し、進捗を一緒に振り返ることが効果的です。
【具体例】
- アシスタント業務の順序を整理して、チェックリストを一緒に作成
- リコール電話での話し方を毎回振り返って、少しずつ改善
5. 「相談しやすい雰囲気」を意識してつくる
いくらマネジメント側が話しやすいと思っていても、スタッフがそう感じていなければ意味がありません。
日頃から「ちょっとした相談でも大歓迎だよ」という姿勢を伝え、小さな変化や悩みに気づける関係を築くことが大切です。
そのためには、スタッフが話しかけたときに手を止めて顔を向ける、聞くときに相槌をうつ、といった“受け入れ姿勢”も重要なポイントです。
このように、日常の何気ない場面に「マネジメントの種」がたくさんあります。
特別な仕組みを導入しなくても、院長やリーダーのちょっとした意識と行動の積み重ねが、スタッフの安心感とやる気を育てるのです。
第5章:これからの院長に求められる姿勢とは?
令和の時代、歯科医院のリーダー像も大きく変化しています。かつては「背中を見せてついてこさせる」タイプの院長が理想とされていましたが、今求められるのは「共に働き、共に育つ」スタイルです。
特に令和人材に対しては、権威や上下関係ではなく、「信頼」と「共感」に基づいた関わりが必要です。院長がスタッフ一人ひとりの声に耳を傾け、対話を重ね、価値観をすり合わせる姿勢こそが、チームを一つにまとめる力になります。
また、「すべて自分で抱え込む」のではなく、「任せて育てる」ことも重要です。リーダーが完璧である必要はありません。むしろ、弱さや悩みを共有し、協力して医院をつくっていく姿勢が、スタッフにとっての安心と信頼につながります。
これからの歯科医院経営において、リーダーの役割は「指導者」ではなく「共育者」。
スタッフとともに歩む姿勢が、持続可能で魅力ある医院づくりへの第一歩となるのです。
【まとめ】:令和時代のマネジメントで、持続可能なチームをつくる
歯科医院におけるスタッフマネジメントは、単なる“人材管理”ではなく、“人の力を引き出す経営戦略”そのものです。
特に令和世代の人材は、価値観や働き方への意識が大きく変化しており、従来の方法では力を発揮できないことも少なくありません。
本記事でご紹介したように、意味を伝え、対話を重ね、コーチング的な関わりを取り入れることで、スタッフは安心し、成長し、自ら考えて行動するようになります。
それが結果的に、医院の診療効率や患者満足度、そして経営の安定に結びついていきます。
“人が辞めない医院”ではなく、“人が育ち続ける医院”へ。
そのためには、まず院長自身が変化を恐れず、時代に合わせたマネジメントを学び続ける姿勢が何よりも大切です。
医院の未来を担うチームを育てるために、明日からできる一歩を、ぜひ今日から始めてみてください。