皆様
いつもお世話になっております。株式会社AMI代表の川口です。お忙しい中、コラムをご覧いただき、誠にありがとうございます。
歯科医院の経営において、自費収入の向上は安定した収益基盤を築くうえで極めて重要な要素です。保険診療中心の医院運営では、診療報酬の改定に左右されやすく、収益の上限が見えてしまいます。そのような中で注目されているのが「TC(トリートメントコーディネーター)」という存在です。
TCは、歯科医師と患者様の間に立ち、治療内容をわかりやすく説明し、患者様の不安や疑問を解消しながら、最適な治療選択をサポートする役割を担います。つまり、TCは“売る人”ではなく、“理解を促す人”なのです。
「販売を不必要にする」マーケティング視点とは?
私がマーケティングの理論で尊敬しているピーター・ドラッカーは、「マーケティングの目的は販売を不必要にすることだ」と述べました。これは、顧客を深く理解し、そのニーズに合致するサービスを自然に選ばれるように設計するという考え方です。
この概念は、歯科医院にもそのまま当てはまります。患者様は、症状を治したいだけではなく、「なぜそうなったのか」「どうすれば再発しないのか」「より快適に生活するには何が必要か」ということを知りたいのです。ここにTCが入ることで、患者様は治療を単なる「治す」ではなく、自分の人生の質を高める手段として捉えるようになります。
治療提案は「押し売り」ではなく「納得」
TCが果たすべき最も重要な役割は、「納得を伴う治療提案」です。ただ治療のメリットを説明するだけでは、患者様は自費治療を選びません。そこに必要なのは、「自分のことを理解してくれている」という安心感です。
たとえば、患者様が「前歯の見た目が気になる」と話していた場合、「この被せ物は見た目が自然ですよ」ではなく、「〇〇様は人前に立つお仕事とのことでしたので、見た目にこだわるお気持ちはよくわかります。こちらの素材は審美性が高く、光の反射も自然ですので、周囲に気づかれにくいです」と伝えると、患者様は“自分の価値観が尊重された”と感じやすくなります。
治療の価値を伝える力が、医院のブランド力を生む
自費治療の成約には、治療そのものの価値だけでなく、「説明をしてくれた人の信頼性」や「医院全体の空気感」が大きく影響します。どれだけ素晴らしい治療技術があっても、それを誰がどう伝えるかによって患者様の受け取り方は大きく変わります。
TCがカウンセリングで「患者様の話を傾聴し、気持ちをくみ取り、選択肢をわかりやすく伝える」ことができれば、それ自体が医院のブランドとなり、口コミや紹介にも繋がります。
また、治療を一度断った患者様でも、TCが丁寧に対応したことで、「やっぱりここでお願いしたい」と後日連絡をくださるケースも少なくありません。ここにも、販売を押し付けるのではなく、“納得”を積み重ねるTCの価値が表れています。
カウンセリングの第一歩は「信頼関係の構築」
TCにとって最初のステップは、患者様との信頼関係を築くことです。いきなり治療の話をするのではなく、まずは「話を聞く」こと。問診票に書かれた内容に基づいて、
- なぜ今回来院しようと思ったのか
- 今までどんな治療経験をしてきたか
- 歯に対する不安やこだわりはあるか
といったことを、丁寧に掘り下げて聞いていきます。このとき、患者様の表情や口調、言葉の裏にある「感情」にも意識を向けると、より深い信頼を得ることができます。
まとめ:患者様の“想い”に寄り添えるかが分かれ道
自費治療の成約率を高めたいと思ったとき、つい「どうやって説明するか」「どのように見せるか」といったテクニックに目が向きがちですが、本質はそこではありません。
患者様の立場に立って、共感し、納得できる治療提案を行う──この基本があってこそ、トークテクニックやツールが活きてきます。
次回は、TC活動の成果を「見える化」し、どのように課題を発見し、改善に活かしていくのか。実際の集計指標やPDCAの回し方について、より具体的に掘り下げていきます。