歯科医院経営改善:変化の時代を生き抜くための羅針盤
近年、歯科医院を取り巻く経営環境は急速に変化しています。人口構造の変化、労働力不足、経済の先行き不安、競争の激化など、外部環境の変化に対応できる柔軟かつ戦略的な経営が求められています。これまでの慣習や経験に頼った経営では対応が難しくなってきており、医院の持続的成長のためには、データに基づいた科学的アプローチと、患者・スタッフの視点に立ったサービスの再構築が不可欠です。また、特に経営に直結するのは採用です。現在はZ世代の人材採用が主となり、そこでのマネジメントや評価制度などが大切となってきます。
本記事では、歯科医院経営改善の必要性とその具体的な進め方について、5つの視点から整理してご紹介します。
目次
歯科医院を取り巻くマクロ環境
日本は少子高齢化の進行により、人口が減少局面に入っています。2020年に約1億2615万人だった総人口は、2030年には約1億1662万人にまで減少すると見込まれており、これは将来的に患者数そのものが減ることを意味します。
また、医療・福祉分野における人材不足は深刻で、歯科医院においても歯科衛生士や歯科助手の確保が難しくなっています。人材の確保・育成・定着は経営課題の一つであり、待遇改善や職場環境の整備が強く求められています。
パーソル総合研究所様の集計では働き手が384万人不足されているとされております。
(出典パーソル総合研究所労働市場の未来推計)

また、時給は下記の形で向上していく形です。
(出典パーソル総合研究所労働市場の未来推計)

まとめると、①働き手が減少 ②賃金は向上の日本全体がなっており、その中でも歯科医院診療報酬+自費治療のモデルであり、診療報酬の加算が加点されるのは特徴のある医院しか予算の関係でつかないことが予想されます。
歯科医院における報酬改定と厚生労働省の考え
2024年6月に実施された歯科診療報酬改定は、予防歯科の強化、デジタル技術の活用促進、在宅医療の推進など、歯科医療の質向上と持続可能性を目指す重要な変更が行われました。以下に主なポイントをまとめます。
1. 予防歯科の強化
高齢化社会に対応し、口腔疾患の重症化予防が重視されました。特に、小児や高齢者の口腔機能管理に関する評価が見直され、保険適用の範囲が拡大されました。これにより、早期からの口腔機能の維持・改善が促進されます。
2. デジタル技術の活用促進
CAD/CAM冠用材料の適応範囲が拡大され、エンドクラウンや光学印象の保険適用が進められました。また、歯科医師と歯科技工士の連携加算が新設され、デジタル技術を活用した歯冠修復の効率化と精度向上が期待されています。
3. 在宅医療の推進
在宅療養支援歯科診療所の評価が見直され、訪問診療の算定要件が緩和されました。これにより、在宅での歯科医療提供体制が強化され、高齢者や通院困難な患者への対応が充実します。
4. 医療従事者の賃上げ評価
歯科衛生士や歯科技工士の賃金改善を評価する新たな加算が設けられました。これにより、人材確保と職場環境の改善が図られ、歯科医療の質の向上が期待されます。
5. かかりつけ歯科医機能の見直し
従来の「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」が廃止され、新たに「口腔管理体制強化加算(口管強)」が導入されました。これにより、口腔機能管理の実績や訪問診療体制の整備が評価され、地域における歯科医療の役割が再定義されました。
これらの改定は、歯科医療の質と持続可能性を高めるための重要なステップです。今後の診療において、これらの変更点を踏まえた対応が求められます。
Z世代の採用
マクロ環境や、診療報酬も変化する中、更に大きいのはZ世代の採用です。Z世代とは、1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代を指します。生まれた時からインターネットやスマートフォンに囲まれて育った“デジタルネイティブ”であり、多様性を重視し、社会的な意義や自己実現を重要視する傾向があります。
Z世代の歯科勤務における考え方
Z世代の若手歯科医師・スタッフの採用と定着には、彼らの「働き方への価値観」を知ることが不可欠です。
特に研修医世代では、次のようなタイプが存在します:
- すぐに実践をしたい層
- 実践+マネキンでの段階的指導を希望する層(フォロー重視)
- 症例相談を通じて、補助から学びを深めたい層
また、Z世代が勤務先として重視する医院情報は以下の通りです:
- 医院の経営ビジョン
- 地域貢献の姿勢
- 保険診療と自費診療のバランス
- 診療内容(矯正・インプラント・訪問など)
- 育休・有給制度
- 教育スケジュールの柔軟性と自主性
このように、Z世代は理念への共感や成長機会の可視化、働き方の自由度を重視する傾向にあります。
Z世代マネジメントの4つの鍵
Z世代を活かすためには、以下のようなマネジメントスタイルの転換が求められます。
- 透明性ある評価とフィードバック
→ 定期的な個人面談、明文化された評価基準の共有 - スピード重視の育成体制
→ 即時フィードバック、マニュアルや動画教材の活用 - 個別対応のマネジメント
→ 一人ひとりの価値観に合わせた目標設定・接し方 - チーム評価の導入
→ 個人主義に偏らず、協働で成果を出す仕組み作り
Z世代は「自分ごと」として業務に向き合う環境と、チームとしてのつながりを両立できる体制に魅力を感じやすいのです。
歯科医院経営への影響と具体的対策
Z世代の価値観を踏まえると、以下のような経営施策が効果的です。
詳しい内容は下記のコラムも参照下さい。
課題 | 推奨される対策 |
採用の難化 | 採用サイトやSNSで医院の理念・教育制度・キャリア形成の情報を発信 |
教育の属人化 | マニュアル・eラーニング・メンター制度を整備 |
離職リスクの増加 | 定期面談・目標共有による関係性の強化 |
チームワークの希薄化 | チーム単位での評価制度・プロジェクト運営の導入 |
働き方の不一致 | 有給や育休制度の明文化と柔軟な勤務体系の整備 |
デジタルとの乖離 | LINE公式アカウント・タブレット・クラウド導入による業務効率化 |
歯科医院が経営改善を行う必要性
表記の3つの変化から2030年度を見据え、経営改善の必要性が大切だと感じます。主に次の3つの理由によって明確になります。
(1) 患者ニーズの多様化
現代の患者は、治療技術だけでなく、医院の雰囲気、スタッフの対応、価格の透明性など、総合的な価値で医院を評価します。インターネットやSNSの活用によって情報収集力が増しているため、医院側も「選ばれる医院」としてブランディングを意識しなければなりません。また、AIが叫ばれる中スタッフ様の接遇も差別化になるかと思います。
(2) 地域競争の激化
歯科医院の数は全国で6万8000件を超え、都市部を中心に過当競争が発生しています。単なる治療提供にとどまらず、独自の強みやストーリーを明確に伝えるマーケティングが必要です。
(3) 経営資源の有効活用
人件費や材料費の高騰に対応するためには、生産性の向上が不可欠です。新患数、キャンセル率、自費率、チェア稼働率などのデータを分析し、ボトルネックの可視化と改善が求められます。
3. 売上が伸びない医院の共通点
売上が伸び悩む医院には、以下のような特徴があります。
売上が伸びない歯科医院の特徴とは?
① 経営者が変化していない
「昔からこうやってきたから」「患者さんが勝手に来るだろう」そんな考えが染みついていませんか?医療も経営も、時代とともに変化しています。SNSやLINEを活用した集客、Z世代向けの採用戦略、患者との関係性を育てるCRMなど、新しい視点が求められる今、経営者自身が変わらなければ医院の未来は止まったままです。経営改善は覚悟から始まります。
② スタッフがやる気の出る組織体制になっていない
売上の鍵を握るのは「チーム」です。スタッフが目的を持ち、前向きに働ける環境が整っていない医院では、モチベーションもパフォーマンスも上がりません。評価制度が曖昧、教育体制が属人的、感謝や承認の文化がない――これらが続けば、優秀な人材ほど離れていきます。院長が一人で頑張る時代は終わり。チームで戦える組織づくりが最優先です。
③ 収益が出る仕組みになっていない
いくら忙しく診療しても、利益が残らない医院は少なくありません。その原因の多くは「保険診療に依存」「カウンセリング体制が不十分」「自費導線が設計されていない」といった、仕組みの不在にあります。単価・回転率・継続率をどう設計するか。その導線がない限り、仕組み化には繋がらないかと思います。売上を生む“収益構造”を戦略的に設計することが必要です。
④ 給与や待遇が低く採用できない
求人を出しても応募が来ない。来てもすぐ辞めてしまう。そんな悩みの裏側には「待遇条件のミスマッチ」があります。給与だけでなく、福利厚生、休暇制度、教育体制など、Z世代が重視するポイントを把握していない医院は選ばれません。「最低限でいい」ではなく、「この医院で働きたい!」と思ってもらえる環境づくりが採用成功のカギです。
⑤ 経営指標から打ち手が出せない
“なんとなく”で経営をしていませんか?患者数や売上だけでなく、自費率、成約率、キャンセル率、リピート率、スタッフの稼働率など、数字には「課題のサイン」が表れます。ですが、その数字を見ても“次の一手”が出せなければ意味がありません。経営とは「仮説と検証の繰り返し」。指標を読み解き、改善策を実行に移す力が必要です。
伸びている医院様は下記の取り組みをしております。
歯科医院が経営改善する改善のための5つのステップ
ステップ1:現状分析と数値の可視化
新患数、自費率、キャンセル率、リコール率などのKPIを定期的に集計し、課題のあるポイントを明確にします。数値に基づいて経営判断を行うことで、行動の優先順位が明確になります。
ステップ2:患者と地域の理解
患者の属性(年齢、性別、ライフスタイル)や、地域の競合医院の動向を把握します。Googleの検索ワード調査や競合のWebサイト分析により、自院のポジショニングを整理することが可能です。
ステップ3:マーケティング施策の強化
- Webサイトの刷新:症例掲載、料金表示、医院の理念を伝える設計。
- SEO・MEO対策:検索で上位表示されるための内部対策・外部対策。
- 広告の活用:Google広告、Yahoo!広告、マップ広告による集患。
- SNS・公式LINE:医院の日常を伝えることで、親近感と信頼感を高めます。
マーケティングのご相談は以下を参照下さい
ステップ4:チーム体制と院内オペレーションの見直し
スタッフとの目標共有、プロジェクト制度の導入、マニュアルの整備により、業務効率とモチベーションを同時に高める体制を構築します。
ステップ5:継続的な改善(PDCAの実行)
施策の実施→検証→改善を月単位で回し続ける体制を整えます。単発的な取り組みではなく、改善文化の定着が成功の鍵です。
まとめ
変化の時代を生き抜く歯科医院には、3つの柱が必要です。
- データに基づく科学的経営
- 患者と地域に寄り添ったサービス提供
- スタッフが活き活きと働ける組織づくり
医院経営は「医療サービス」と「経営マネジメント」の両輪で成り立ちます。今後も変化の波は続くと予測される中で、柔軟で迅速な意思決定ができる経営体制を整え、地域に必要とされ続ける歯科医院を目指していきましょう。
いつでもご相談いただけますと幸いです。