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自費率アップ
2025/04/07

歯科医院の自費率を上げていく手法とは?

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歯科医院を取り巻く経営環境は、技術の進歩、患者様の価値観の変化、そして社会情勢の影響を受け、常に変化し続けています。競争が激化し、患者様のニーズが多様化する現代において、従来の経験や勘に頼った経営だけでは、安定した成長を持続させることは困難になりつつあります。

このような状況下で、歯科医院が持続的に発展し、地域医療への貢献を果たし続けるためには、データに基づいた客観的な現状分析と、それに基づく戦略的なマーケティングおよび院外・院内運営体制の構築が不可欠です。漠然とした目標ではなく、具体的な数値を追いかけ、改善を繰り返すことで、初めて売上と利益の最大化、そして質の高い医療サービスの提供という二つの目標を両立させることが可能になります。

本稿では、歯科医院の売上と利益を最大化するための重要な考え方、具体的な指標、そして実践的な施策について、最新の知見を交えながら詳細に解説していきます。日々の診療に追われ、経営戦略まで手が回らないとお悩みの先生方、あるいは更なる飛躍を目指す意欲的な先生方にとって、本稿がデータに基づいた成長への確かな道筋を描く一助となれば幸いです。

歯科医院の経営の現状とは?

歯科医院の経営実態については、厚生労働省の「第23回医療経済統計調査」によると、歯科医院の年間平均売上高は約4,574万円で、月間に換算すると約380万円となります。また、個人開業の歯科医院では、平均すると保険診療による売上が82.2%その他(自費診療等)での売上が17.6%となっております。

参考:厚生労働省「第23回医療経済統計調査」

生産性向上と自費:質の高い医療が収益を生む両輪

歯科医院経営において、収益性を高めるための二つの重要な柱が「生産性の向上」と「自費治療の推進」です。これらは独立したものではなく、相互に関連し合いながら医院の成長を加速させます。

生産性向上:効率化が生み出す価値

生産性とは、投入した資源(ヒト、モノ、カネ、時間)に対して、どれだけの成果(売上、利益、治療完了数など)を生み出せたかを示す指標です。歯科医院においては、以下のような指標で測ることができます

ヒトの年間生産性、チェア1台当たりの生産性などです。

これらの生産性を高めるためには、徹底した業務効率化が不可欠です。予約管理システムの最適化、電子カルテの有効活用、スタッフのスキルアップと多能工化、動線の見直し、そして近年注目されるAI技術の導入などが考えられます。

歯科医院の売上を分解する

売上を戦略的に伸ばしていくためには、まず「売上」がどのような要素で構成されているのかを理解する必要があります。

売上の基本構造:「単価 × 客数」となります。

  • 単価: 患者様一人あたりの診療単価。自費診療の導入や、より付加価値の高い治療を提供することで向上します。
  • 客数: 一定期間に来院する患者様の数。新規患者の獲得と、既存患者のリピートによって構成されます。

このシンプルな分解から、売上を上げるためには「単価を上げる」か「客数を増やす」、あるいは「その両方を追求する」必要があることがわかります。

長期的な視点:LTV(顧客生涯価値)

さらに、短期的な売上だけでなく、長期的な視点で経営を捉える上で重要になるのがLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の概念です。LTVとは、一人の患者様が、その医院に通い続ける期間全体を通じて、どれだけの利益をもたらしてくれるかを示す指標です

TVは一般的に以下の式で算出されます。

LTVを高めるためには、

  • 来院単価を上げる: 質の高い自費診療の提供、適切なアップセル・クロスセル。
  • 来院頻度を上げる: 定期的なメンテナンス(リコール)の定着。
  • 来院継続期間を延ばす: 患者満足度の向上、信頼関係の構築、通いやすい環境づくり。 が重要になります。新規患者の獲得にはコストがかかりますが、既存患者のLTVを高めることは、より効率的に医院の収益基盤を安定させることに繋がります。

コスト意識:顧客獲得コスト(CAC)とROI(投資対効果)

新規の患者様を獲得するためには、広告宣伝費や紹介依頼など、様々なコスト(CAC: Customer Acquisition Cost)が発生します。また、新しい設備を導入したり、マーケティング施策を実施したりする際にも投資が必要です。

これらの投資がどれだけの利益を生み出しているのかを測る指標がROI(Return On Investment:投資対効果)です。

ROI (%) = (利益額 ÷ 投資額) × 100

例えば、100万円の広告費をかけて150万円の利益(粗利)が得られた場合、ROIは50%となります。どのマーケティングチャネル(Web広告、チラシ、紹介など)が最も効率的に新規患者を獲得できているのか、どの設備投資が収益向上に貢献しているのかをROIで評価し、費用対効果の高い施策に経営資源を集中させることが、賢明な経営判断と言えます。

KGIとKPI:目標達成への羅針盤

感覚的な経営から脱却し、データに基づいた戦略的な経営を実現するためには、目標設定とその進捗管理が不可欠です。そのためのフレームワークが、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)です。

  • KGI(重要目標達成指標): 経営における最終的な目標数値。「営業利益〇〇円」など、組織全体で目指すゴールを示します
  • KPI(重要業績評価指標): KGIを達成するための中間的な目標数値であり、日々の活動の進捗を測るための指標。「新規患者数〇人/月」「自費率〇%」「キャンセル率〇%未満」「メンテナンス移行率〇%」などが該当します
  • KPI設定のポイント

KPIを設定する際は、KGI達成に繋がる要素を分解していくことが重要です。例えば、KGIが「売上高の向上」であれば、前述の通り売上は「単価 × 客数」に分解できます。さらに単価は「保険単価」「自費単価」「自費率」などに、客数は「新規患者数」「リピート患者数(リピート率)」などに分解できます。リピート患者数は「治療中断率の低減」「メンテナンス移行率の向上」といった要素に紐づきます。

このように、KGIからKPIへと細分化していくことで、目標達成のために具体的に何をすべきか、どの数値を改善すれば良いのかが明確になります。

定量型PDCAの重要性

設定したKPIは、定期的に計測・分析し、目標との差異を確認する必要があります。そして、その結果に基づいて改善策を実行し(Do)、効果を検証し(Check)、更なる改善に繋げる(Action)というPDCAサイクルを回していくことが重要です。

特に、勘や経験に頼るのではなく、具体的な数値(定量データ)に基づいて改善を行う「定量型PDCA」を実践することが、着実な成果に繋がります。

保険売上を上げる5つのポイント

保険診療は、多くの歯科医院にとって経営の基盤となる重要な収益源です。以下の5つのポイントに注力し、保険売上の安定化と向上を図りましょう。

  1. 新患を増やす:
    • 現状分析: まずは自院の商圏を分析し、ターゲットとなる住民層のニーズ(年齢層、家族構成、求めている治療など)を把握します。
    • Web戦略: SEO(検索エンジン最適化)やMEO対策を強化し、地域名+「歯医者」などで検索された際に上位表示されるように努めます必要に応じてリスティング広告(検索連動型広告)の出稿も検討します。
    • オフライン戦略: 地域イベントへの参加、近隣企業との連携、ポスティングなども有効な場合があります。                                   
    • 情報発信: ホームページやSNS(Instagram,)で、医院の雰囲気、診療内容、スタッフ紹介などを発信し、親近感と信頼感を醸成します。
  1. キャンセル・中断対策:
    • 原因分析: キャンセルや治療中断が多い場合、その中断治療の前後を分析します。
    • 予約リマインド: 電話やSMS、公式LINEなどを活用し、予約前日にリマインドメッセージを送ることで、忘れを防ぎます。予約システムの自動リマインド機能も有効です。
    • 中断患者へのアプローチ: 治療途中で来院が途絶えた患者様に対して、電話やハガキ、公式LINEなどで状況を伺い、治療再開を促します。その際、患者様の不安を取り除くような配慮が必要です。
  1. メンテナンスを増やす:
    • 重要性の啓発: 治療完了時や診療中に、定期メンテナンスが口腔内の健康維持にいかに重要であるかを、分かりやすく説明します。予防歯科の価値を伝え、患者様の意識を高めることが第一歩です。
    • コールシステムの確立: 定期健診の時期が近づいた患者様に、ハガキや電話、公式LINEなどで案内を送るリコールシステムを確実に運用します。担当衛生士制を導入し、患者様との信頼関係を築くことも有効です。
    • メンテナンス移行率の計測: 治療完了者の中から、どれくらいの割合がメンテナンスに移行しているかをKPIとして設定・計測し、改善策を検討します。
    • 公式LINE活用: メンテナンスに関する情報提供や、予約リマインド、空き状況の案内などをLINEで行うことで、利便性を高めます。
    • アポイントの最適化:
    • 稼働率の意識: ユニット(診療台)が空いている時間を極力減らし、稼働率を高めることを意識します。
  1. 予約枠の見直し 患者様の層(会社員が多い、主婦が多いなど)や治療内容に合わせて、予約枠の時間設定や配置を最適化します。急患対応のためのバッファも考慮します 情報共有: 予約状況をスタッフ全員がリアルタイムで把握できるシステムを導入し、スムーズな連携を図ります。
  2. 算定をしっかり取る:
    • 保険制度の理解: 複雑な保険診療のルールや算定要件を正確に理解することが大前提です。定期的な勉強会や研修を実施し、スタッフ全体の知識レベルを維持・向上させます。

自費治療を上げる5つのポイント

自費治療は、医院の収益性を大きく向上させるだけでなく、患者様により質の高い、個別化された医療を提供する機会でもあります。以下の5つのポイントを意識し、戦略的に自費治療を推進しましょう。

  1. 目標設定と歩留まり集計
    • 明確な目標: まず、医院全体および各治療メニュー(インプラント、矯正、審美など)における自費治療の年間・月間目標金額(KGI)を設定します。

プロセスの可視化: 患者様が自費治療に関心を持ち、カウンセリングを受け、最終的に契約に至るまでの各段階(例:初診→検査→コンサルテーション→見積提示→契約)における移行率(歩留まり)を計測・分析します。どの段階で離脱が多いのかを把握することが、改善の第一歩です。

  1. 予実管理:
    • 定期的なモニタリング: 設定した自費目標(予算)に対して、実績がどの程度進捗しているかを定期的に確認します(週次、月次など)。
    • 差異分析: 目標と実績に乖離がある場合、その原因を分析します。「カウンセリングの成約率が低いのか」「そもそも自費の提案数が少ないのか」「特定の治療メニューが伸び悩んでいるのか」などを特定します。
    • 改善策の実行: 分析結果に基づき、具体的な改善策(カウンセリングスキルの向上研修、新しい広告戦略の導入、患者説明ツールの見直しなど)を立案・実行します。
  2. 広告の活用:
    • ターゲット設定: どのような患者様に、どの自費治療を届けたいのかを明確にします(例:審美に関心のある20-40代女性にホワイトニング、歯を失って悩む50-70代男女にインプラント)。

ランディングページ(LP)制作: 特定の自費治療(インプラント、矯正など)に特化した専門ページ(LP)を作成します。LPには、治療のメリット・デメリット、症例写真・動画、費用、患者様の声、無料相談への導線などを分かりやすく掲載し、患者様の疑問や不安を解消することが重要です。医院の強みや治療へのこだわりをアピールすることも効果的です。

4.カウンセリング体制の構築:

  • 重要性の認識: 自費治療の成否はカウンセリングで決まると言っても過言ではありません。単なる説明ではなく、患者様の価値観やライフスタイルに寄り添い、信頼関係を築く場と捉えます。
https://ami-h.com/2025/03/19/%e3%80%90%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e3%80%91%e6%ad%af%e7%a7%91%e8%87%aa%e8%b2%bb%e7%8e%87up%e3%82%92%e6%9c%80%e5%a4%a7%e5%8c%96%e3%81%99%e3%82%8b%e9%8d%b5%e3%81%aftcx%e5%85%ac%e5%bc%8fline%e3%81%ab

段階的なアプローチ:

  • 問診票の工夫: 初診時の問診票で、自費治療への関心度や過去の経験、お口に関する悩みや希望などを事前に把握します。
  • ファーストカウンセリング: 検査結果に基づき、現状の問題点、考えられる治療の選択肢(保険・自費含め)を提示し、患者様の意向を確認します。
  • セカンドカウンセリング: より具体的な治療計画、費用、期間、メリット・デメリットなどを詳しく説明し、患者様の疑問に丁寧に答えます。模型やシミュレーションソフト、症例写真などを活用し、視覚的に分かりやすく伝える工夫も有効です。

役割分担: TC(トリートメントコーディネーター)や経験豊富な歯科衛生士がカウンセリングを担当するなど、専門性を活かした役割分担を明確にすることも効果的です。

  1. 公式LINEの活用:
    • 関係構築ツール: 公式LINEは、患者様と継続的なコミュニケーションを図り、医院への親近感や信頼感を高めるための強力なツールです。

情報発信: 自費治療に関する情報(新しい治療法の紹介、症例紹介、キャンペーン案内など)を定期的に配信し、患者様の関心を喚起します。

売上と利益を考える

ここまで売上を向上させるための戦略について述べてきましたが、最終的に医院経営で重要となるのは「利益」です。売上がどんなに高くても、コストがかかりすぎていては健全な経営とは言えません。

利益構造の理解:

基本的なことですが、利益(営業利益) = 売上 – コスト(費用) ですコストには、人件費、材料費、家賃、広告宣伝費、減価償却費などが含まれます。

コスト管理の重要性:

売上向上努力と同時に、無駄なコストを削減し、効率的な医院運営を心がけることも利益最大化のためには不可欠です。また一人当たりの生産性に注力した経営が望まれます。

まとめ:データと戦略で未来を拓く

本稿では、歯科医院の売上と利益を最大化するための重要な考え方と具体的な施策について、多角的に解説してきました。激しく変化する経営環境の中で勝ち残り、地域医療に貢献し続けるためには、以下の要素を統合的に捉え、戦略的に実践していくことが不可欠です。

  • 現状の正確な把握: 平均値に惑わされず、自院の売上、自費率、各種KPIをデータに基づいて把握する。
  • 生産性と質の両立: 業務効率化による生産性向上と、丁寧なカウンセリングに基づく質の高い自費医療の提供は両輪である。
  • 経営指標の活用: LTVで長期的な視点を持ち、CACROIでコスト意識と投資効果を測る。
  • 目標管理の徹底: KGIでゴールを定め、KPIでプロセスを管理し、定量型PDCAを回し続ける。
  • 収益源の強化: 保険診療の基盤を固める5つのポイントと、自費診療を伸ばす5つのポイントを着実に実行する。
  • 利益重視の経営: 売上だけでなく、コスト管理賢明な投資判断により、最終的な利益を追求する。

これらの要素は、単独で機能するものではありません。マーケティング(売上向上策)とマネジメント(院内体制構築・コスト管理)は車の両輪であり、データという羅針盤を頼りに、常に改善を続けていくことが成功への道筋です。

何から手をつければ良いか分からない、と感じる先生もいらっしゃるかもしれません。まずは、自院の現状を示すデータを収集・分析し、具体的な数値目標(KGI/KPI)を設定することから始めてみてください。そして、本稿でご紹介した戦略や施策の中から、自院の課題解決に繋がりそうなもの、すぐに取り組めそうなものを選び、スモールスタートで実践していくことをお勧めします。

データに基づいた戦略的な経営は、決して難しいものではありません。一歩ずつ着実に進めることで、必ずや医院の明るい未来を拓くことができるはずです。本稿が、その一助となれば幸いです。