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歯科経営メソッド
採用・労務
2026/11/06

歯科衛生士の特定行為とは|厚労省中間報告の要点と歯科医院の準備5つ

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2026年11月2日、厚生労働省「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会」が中間報告を公表しました。いちばんのポイントは、看護師の「特定行為」と同じように、歯科医師があらかじめ作った手順書に基づいて、研修を受けた歯科衛生士が歯科診療の補助を行える仕組みを導入する方向が示されたことです。

「衛生士に何を任せられるか」は、チェアの回し方、歯科医師の時間の使い方、衛生士の採用と定着のすべてに関わります。今回の中間報告は、歯科医院の運営の前提が変わり始める合図と言えます。

本記事では、歯科医院専門の経営コンサルティング「シカラボ」(株式会社AMI)が、中間報告の要点を院長・事務長向けに整理します。先に始まった看護師の特定行為から読み取れること、今後対象になりそうな行為(私見)、そして制度の中身が決まる前に医院が準備しておきたい5つのことをまとめました。

この記事でわかること:

  • 歯科衛生士の「特定行為」(手順書による診療補助)の仕組みと、今の働き方との違い
  • 中間報告の需給推計から見える、衛生士の採用難の本当の原因
  • 看護師の特定行為制度で何が任され、なぜ普及が遅れたのか
  • 歯科医院が今から準備しておきたい5つのこと

歯科衛生士の「特定行為」とは:中間報告で示された新しい仕組み

手順書があれば、衛生士がその場で判断して動ける

中間報告が示した仕組みは、看護師の特定行為とほぼ同じ構造です。流れは次の3段階です。

  1. 歯科医師が、行為ごとに「手順書」を作る(どんな状態の患者に行うか、実施するかどうかの判断基準、歯科医師への報告の方法など)
  2. 歯科衛生士が、その行為について定められた研修を受ける
  3. 手順書の範囲内であれば、衛生士が患者の状態をその場で判断し、歯科医師の都度の指示を待たずに診療の補助を行う

手順書の範囲から外れる状態の患者であれば、これまでどおり歯科医師に報告し、指示を受けます。「任せる範囲」と「歯科医師に戻す基準」を、あらかじめ文章で決めておく仕組みです。

今の働き方と手順書方式の違い 都度の指示 手順書に基づく判断

今の「都度の指示」と何が違うのか

歯科衛生士が行う歯科診療の補助は、現在は歯科医師の指示のもとで行うことが前提です。実際の診療でも、衛生士が処置に入る前や、患者の状態が想定と違ったときに、歯科医師の確認を待つ場面は少なくありません。歯科医師が別のチェアで治療中だと、そのあいだ衛生士の手が止まります。

手順書方式になると、手順書の範囲内では、この都度の確認が不要になります。歯科医師がチェアを離れていても衛生士の業務が止まらず、衛生士は「指示を待つ人」から「判断を任される専門職」へと役割が変わります。歯科医師にとっては、自分にしかできない診断や治療に時間を使えるようになります。

中間報告が挙げた具体例と、まだ決まっていないこと

中間報告では、手順書に基づく診療補助の例として、訪問歯科診療や病院、歯科医療機関で、患者の呼吸と口腔・咽頭の状態を判断して吸引を行うことが挙げられました。高度で専門的な知識と技能が必要な補助行為を、研修を受けた衛生士に任せていくという考え方です。

一方で、具体的にどの行為を対象にするか、研修の期間や実施する団体、関係学会の認定制度をどう使うかは、これからの検討事項とされています。報道では、中間報告に関係法令などの整備を進めることも明記されたと伝えられています。いま決まっているのは「方向」であって「中身」ではない、という点は押さえておく必要があります。

なぜ今、衛生士の業務が見直されるのか

背景には、歯科医療を取り巻く環境の大きな変化があります。中間報告は冒頭で、2040年にかけて85歳以上の高齢者が増え、在宅医療のニーズが高まる一方、働く世代(生産年齢人口)は減っていくことを指摘しています。入院患者や在宅療養中の患者に対する口腔健康管理のニーズは増えていますが、それを担う人の数は簡単には増えません。

さらに、地域によっては歯科医療そのものを提供しにくくなることも想定されています。歯科医師がすべての場面に立ち会う前提のままでは、必要な患者に必要なケアが届かなくなるおそれがあります。質を保ちながら効率よく歯科医療を届けるために、衛生士が担える範囲を広げる。これが今回の議論の出発点です。

なお、この検討会は2024年12月に始まり、当初の検討事項は「歯科衛生士の浸潤麻酔の研修体制等の整備」と「歯科衛生士の必要数」の2つでした。そこから議論が広がり、手順書に基づく診療補助という、より大きな枠組みが示されたことになります。

中間報告の要点:衛生士は「足りない」のではなく「働いていない」

免許を持つ人の半数以上が、衛生士として働いていない

中間報告の需給推計は、採用難の構造をはっきり示しています。令和6年(2024年)時点で、歯科衛生士の免許登録者は326,651人。そのうち就業しているのは149,579人で、就業率は45.8%です。免許を持つ人の半数以上が、歯科衛生士として働いていないことになります。就業者の約9割は歯科診療所に勤めています。

項目数値
免許登録者(2024年)326,651人
就業者(2024年)149,579人(就業率45.8%)
2035年の需要(患者数の推移から)約18.8万人
2035年の需要(在宅・指導管理の増加と3〜5%の業務効率化を加味)約19.0〜19.4万人
2034年の供給(就業率が今と同じ場合)約18.4〜18.7万人
2034年の供給(就業率が改善した場合)約18.9〜24.6万人

供給が需要を上回るのは「就業率が上がった場合」だけ

就業率が今のままだと、10年後も供給は需要に届きません。供給が需要を上回るのは、20代の就業率が75〜80%、30〜50代の就業率が70%まで上がった場合に限られます。

養成校を増やす道も、簡単ではありません。中間報告では、18歳人口が減るなかで養成施設を新しく増やすのは現実的ではないとの意見があることが紹介されています。つまり、衛生士を確保できるかどうかは、一度現場を離れた衛生士が戻ってきたくなる職場を、医院がつくれるかどうかにかかっています。

報告書が挙げた課題:就労支援、新人教育、ライフイベントでの離職

中間報告は、衛生士が働き続けにくい理由として、養成校を卒業したあとの就労支援が整っていないこと、新人の教育体制が医院ごとにまちまちなこと、結婚や出産などのライフイベントで離職する人が多いことを挙げています。

そのうえで、復職支援の取り組みを続けること、潜在衛生士へのアプローチ方法を検討すること、衛生士が柔軟に働ける歯科診療所の体制(適切な業務分担、診療所の機能分化や大規模化など)を検討することが示されました。へき地など、地域による確保の難しさ(地域偏在)は、都道府県別の需給など別の観点からの検討も必要とされています。

採用難の原因は「人数が足りない」ことよりも、「働き続けられる職場が少ない」ことにある。これが需給推計から読み取れる一番のメッセージです。

先行する看護師の特定行為から読み取れること

看護師には「21区分38行為」が任されている

看護師の特定行為研修制度は、2015年10月の保健師助産師看護師法の改正で始まりました。対象は21区分38行為です。医師の手順書があれば、看護師がその場の判断で実施でき、都度の指示は不要です。歯科に置き換えて読むと、どのくらいの行為まで任されうるのか、感覚がつかめます。

区分の例行為の例
呼吸器関連気管カニューレの交換、人工呼吸器の設定の変更
栄養・水分管理脱水症状に対する輸液による補正
創傷管理褥瘡の壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法
血糖コントロールインスリンの投与量の調整
検査・カテーテル動脈からの採血、中心静脈カテーテルの抜去

「補助」の範囲は想像より広い

壊死組織の除去やインスリン量の調整まで含まれている点が重要です。「診療の補助」という言葉から想像するより、はるかに判断と体への負担(侵襲)を伴う行為が対象になりました。

歯科でも、制度ができれば「衛生士にはここまで」という今の常識が変わる可能性があります。一方で、看護師の制度でも、診断や治療方針の決定は医師の業務として残っています。「医師が判断すべきこと」と「手順書で任せられること」の線引きが、制度づくりの中心でした。

制度ができても、研修修了者が増えないと現場は変わらない

看護師の制度は、普及の遅れも経験しています。研修は指定された研修機関で区分ごとに受ける必要があり、2019年からは在宅・慢性期や外科の術後管理などをまとめて学べる「パッケージ研修」も始まりましたが、修了者は目標の10万人に対して1万人台にとどまっているとされています。

現場からは、研修の時間と費用の負担が大きい、修了しても職場での役割や処遇が変わらない、といった声が挙がってきました。歯科でも、研修を受けた衛生士をどれだけ増やせるか、修了した衛生士を医院がどう活かすかが、制度が現場に根づくかどうかの分かれ目になります。

今後、対象として議論されそうな行為(私見)

候補になりそうな5つの行為

具体的な対象行為はこれからの検討事項です。ここでは、中間報告の内容と看護師の前例から、議論の対象になりやすいと考えられる行為を挙げます。あくまで筆者の私見であり、決まったものではありません。

候補根拠・背景
訪問・病院での吸引中間報告そのものが例として挙げている。最初の対象になる可能性が高い
浸潤麻酔検討会の設置時から「浸潤麻酔の研修体制等の整備」が検討事項に入っている
歯周治療で判断を伴う処置(SRPの範囲、再評価の判断など)衛生士の中心業務。手順書で任せられれば、歯科医師の都度の確認が減る
在宅・施設での口腔管理に関する判断中間報告は在宅・指導管理のニーズ増加を需要推計の前提に置いている
医院ごとに判断が分かれている補助行為(印象採得・仮封など)手順書と研修で範囲をはっきりさせる対象になりうる

訪問歯科の生産性に直結する

中間報告が、在宅や病院の場面を例に挙げている点は見逃せません。訪問歯科では、歯科医師が毎回同行できるとは限らず、衛生士が単独で患者の状態を判断しなければならない場面が多くあります。手順書で判断の範囲が決まれば、訪問の件数や組み方の自由度が上がり、訪問歯科の生産性に直結します。

訪問歯科に力を入れている医院、これから始めたい医院ほど、制度の動きを早めに追っておく価値があります。訪問歯科の始め方は「訪問歯科の始め方と意義」でまとめています。

歯科医師の業務として残るもの

逆に、診断、治療計画の決定、外科処置そのものは、歯科医師の業務として残るはずです。手順書方式は、歯科医師の仕事を減らす制度ではなく、歯科医師が判断すべきことに集中できるよう、衛生士に任せる範囲を明文化する制度と捉えるのが正確です。

医院のタイプ別:手順書方式で何が変わるか

歯科医師1人の医院:院長の「待たせる時間」が減る

歯科医師が院長1人の医院では、衛生士の処置のたびに院長が呼ばれ、治療中の手を止めたり、衛生士を待たせたりする場面が日常的に起きています。手順書で任せる範囲が決まれば、院長は自分の治療に集中でき、衛生士のチェアも止まりにくくなります。

1日に何度も発生する「ちょっと見てください」が減るだけでも、診療の流れは大きく変わります。院長1人で回している医院ほど、効果を実感しやすい仕組みです。

複数の歯科医師がいる医院・医療法人:任せ方をそろえられる

歯科医師が複数いる医院や、分院を持つ医療法人では、「どの先生の担当か」によって衛生士に任せる範囲が違うことがよくあります。衛生士から見ると、先生ごとにやり方を変えなければならず、それが働きにくさや離職の原因になることもあります。

手順書は、医院としての任せ方を1つにそろえるきっかけになります。分院間で手順書をそろえれば、衛生士の異動や応援もしやすくなり、新しい分院を立ち上げるときの教育もスムーズになります。

訪問歯科に取り組む医院:訪問の組み方の自由度が上がる

訪問歯科では、歯科医師と衛生士が同じ日に同じ患者を訪問できるとは限りません。衛生士がその場で判断できる範囲が手順書で決まれば、衛生士が先に訪問して状態を確認し、必要なときだけ歯科医師につなぐ、といった組み方がしやすくなります。中間報告が訪問の場面を例に挙げていることからも、この領域は制度の影響を最も受けやすいと考えられます。

歯科医院が今から準備しておきたい5つのこと

制度の中身が決まるのを待つ必要はありません。手順書方式は「衛生士に任せる範囲を、医院が文章にできているか」を前提にした制度です。今から整えておけることがあります。

歯科医院が今から準備しておきたい5つのこと

1. 歯科医師と衛生士の業務の線引きを書き出す

手順書の土台になります。今どの行為を誰がやっているか、どこまでを衛生士の判断に任せているかを書き出すところから始めます。同じ医院でも、歯科医師によって任せ方が違うことはよくあります。暗黙のルールを文章にするだけで、歯科医師同士の認識がそろい、新人教育や採用の説明にも使えます。

2. 衛生士が「判断」できる教育体制をつくる

手順書方式では、衛生士がその場で患者の状態を判断することが求められます。処置の手順だけでなく、「この所見ならどうするか」「どんなときに歯科医師を呼ぶか」という判断の基準まで含めた教育が必要です。新人の教育体制が整っていないことは、中間報告でも課題として挙げられています。教育の仕組みがある医院は、それだけで求職者から選ばれやすくなります。

3. 衛生士が主体の診療で、収益を伸ばす体制をつくる

衛生士が自分の判断で動ける範囲が広がるほど、歯科医師の時間を自費診療や外科処置に回せるようになります。メンテナンスや指導管理、訪問など、衛生士が主体となる診療をどう組み立てるかが、医院の収益の形を決める時代に入ります。メンテナンスの時間配分の考え方は「歯科経営における最適なメンテナンス時間は」も参考にしてください。

4. 研修を受けた衛生士を、評価と給与で報いる

看護師の制度は、研修修了者が増えずに普及が遅れました。衛生士を研修に送り出すだけでなく、修了したあとに任せる役割と処遇を先に決めておくことが大切です。「研修を受けると、こういう仕事を任され、評価と給与にこう反映される」と示せる医院は、衛生士の定着にも採用にも強くなります。評価制度の考え方は「歯科医院組織力3.0」でも紹介しています。

5. 潜在衛生士が戻れる受け皿をつくる

需給推計が示すとおり、衛生士を増やす一番の道は、離職した衛生士に戻ってきてもらうことです。時短勤務、ブランクのある人向けの再教育、訪問や指導管理を専任で担う働き方など、ライフイベントと両立できる働き方を用意できる医院が、潜在衛生士の受け皿になります。採用の手段そのものを見直したい場合は「歯科衛生士の採用方法7つを比較」もあわせてご覧ください。

まとめ:「衛生士に任せられる医院」かどうかで差が開く

  • 中間報告は、歯科医師の手順書に基づいて、研修を受けた衛生士が診療の補助を行う仕組みを導入する方向を示した
  • 衛生士の免許保有者の半数以上が働いておらず、採用難の原因は「人数」より「働き続けられる職場の少なさ」にある
  • 看護師の前例では、制度ができても研修修了者が増えず、普及が遅れた
  • 対象行為はこれから決まるが、業務の線引き・教育・処遇・復職の受け皿は今から整えられる

今回の中間報告は、衛生士の採用難を「人数の問題」から「任せ方の問題」へと置き直したものと読むべきです。衛生士が判断を任され、評価され、キャリアを描ける医院に人は集まります。手順書方式は、その差を制度として目に見える形にする仕組みになります。

制度が本格的に始まったときに、すぐに恩恵を受けられるのは、先に業務分担を文章にし、教育と処遇を整えておいた医院です。

シカラボでは、医院ごとに「衛生士に任せる範囲をどこまで広げられるか」を論点に、業務分担の明文化、衛生士の教育体制づくり、メンテナンスや指導管理を軸にした収益の組み立て、評価制度への反映までご支援しています。自院の衛生士体制を見直したい先生は、お気軽にご相談ください。

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出典:
厚生労働省「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会 中間報告」(2026年11月2日)
厚生労働省「第6回 歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会 資料1 中間報告(案)」(2026年7月15日)
厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度」公表資料
※「今後、対象として議論されそうな行為」の項は筆者の私見であり、今後の検討で変わる可能性があります。